縁、遥
縁、という。 良きも悪しきも、人の出会うは奇縁なりと老魔術師は言った。因果とも。運命とも。 ユーリルは運命という言葉はどうも好きになれなかった。 「定められたもののような気がするので」 それは神の裁量と神官は言うが、神という存在自体ユーリルには疑問だった。 くだらない、と銀髪の魔族の声がした。その方向を見るのには抵抗がある。あいつと出会ったのも縁なのか。共にいく、と決めたことも因果なのか。生れ落ちたことすら、運命と切り捨てられるのか。 考えても答えのないことを、ユーリルはもう幾度も考えた。 憎いはずなのだ。 だがその声の色を耳は拒めない。 声の方向に目をやると、紅い瞳とぶつかった。 「ただ、ひとが動くだけだ」 それだけのことだが、ただそれだけが出会いを生む。 簡単なことだ。ユーリルも同感ではあったが、それを言ったのがピサロでなければもう少し嬉しかったのに、と思った。その表情を見て取られたか、ピサロが意地の悪い笑みを唇に薄く浮かべた。 それを無視して、ユーリルはブライに向き直る。 「縁が、」 訊こうとしたと同時に答えも分かった気はした。 「縁が終わるときは、いつでしょうか」 ブライも間を置かずあっさりと答える。 「死ぬる時よな」 己の人生の中で、会うべきものにすべて会ったとき、人は死ぬのだという。 「じゃあ僕は」 もうすぐ死ぬのだろうかという問いはとても口には出せなかった。 会うべき人、会いたいと思っていた人々はもうこの世にはいない。仇を生かして。運命を断ち切って。 「縁を信じぬ割には己の心配か」 「違う」 妙に愉快そうなピサロの声に後ろを睨めつけたものの、見透かされたような物言いにどきりとした。 ブライが笑う。 「あんたはまだ死なんよ」 「そういう、運命だからですか」 いやいや、と皺だらけの手が揺れた。 「勘じゃな」 思わずユーリルは吹き出した。今までのご高説はなんだったのだろうか。 「矛盾しています」 だが、その矛盾が嬉しくもあった。嘘でも、そうでなくてもいいのだ。そうじゃの、とブライもまた笑う。 それが人間じゃないのか、と背後で魔王のつまらなそうな声がした。 |
END
2005.8.20
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勇者君は少しひねちゃってますが本当は縁というもののつながりは嫌じゃないと思います。
私は縁という言葉が大好きです。