初夜おまけ
| 日も変わって2時間ほど経った頃、宿の入口にマーニャは現われた。ルーラの魔力が働いたのを目敏い妹に見抜かれねばいいが、忍び足でこそこそと宿に入る。1階の酒場には顔見知りの連中がまだ数人飲んだくれていた。今日は早いね、と皮肉られて、マーニャは舌を出した。 「余計なお世話」 ユーリルとトルネコに借りた1000ゴールドはものの1時間で擦ってしまい、大半は上のバーで時間を潰していたのだが、バーの客との賭けポーカーで500ゴールドはせしめた。たまには運が尽きないうちにと、早々帰って来たのだ。 「まずまずだったわよ」 ホントかよ、という声を背にマーニャは階段を上がり、物音を立てないように自室に滑り込んだ。隣がミネアだ。ばれたら色々面倒なことになるので、息も出来るだけひそめた。その辺に放っておいた寝間着を拾うと、これまた静かに浴室に向かった。冒険中でさえなければ、入れるときにいつだって風呂には入りたい。 廊下の奥の浴室に着くと、中から水音が聞こえる。マーニャは眉を顰めた。 無遠慮に脱衣所に入り、湯場の扉に向かって声を掛けた。 「こんな時間に風呂使ってんのは誰よ?」 自分の事は棚に上げている。 一瞬間があって、僕だよ、と声がした。 「ユーリル?」 マーニャはずかずかと扉に近づき、何のためらいもなくいきなり開けた。うわ、と声が上がり、湯がはねる。翠の髪が湯船の中に消えた。 「何よ、減るもんじゃないでしょ」 湯船の縁から目だけ出して、ユーリルはぶくぶくと悪態をついた。 「僕のは減るんだよ」 「生意気言ってんじゃないわよ」 憎まれ口で誤魔化しているものの、マーニャはユーリルの目に何かいつもと違う暗いものを感じ取った。 「どうかしたの?」 問うと、ユーリルは首を傾げた。 「別に、何も」 嘘。 マーニャはそれを悟ったが、追求するのは止めた。嘘が下手な人間が敢えて隠すような事があるなら、それを問い詰めるのは酷く傷付ける事にもなる。 「ならいいんだけど。早く出てよ。お湯も替えてね。待ってんだから」 言うだけ言ってマーニャは扉を閉めた。浴室を出て、思案する。ユーリルの心の枷になるものがあるとしたら、おそらくピサロ関係だろう。あまり考えて楽しいことでもない。 くそ、馬鹿。 ウチの勇者ちゃんにちょっかいを出しているならピサロに対してそう思うし、何かあるなら言ってくれてもいいのに、とユーリルに対しても思う。歯痒かった。 風呂が空くまで部屋で待とうと、マーニャは廊下を曲がった。足音を忍ばせる事も忘れて。足元を見ていたので、危うく誰かとぶつかりそうになる。聞き慣れた、抑えた声。 「姉さん」 「げ、ミネア……」 マーニャは弟分の事から離れ、自分の言い訳を考えなければならなくなった。 ユーリルは湯船に頭を凭せ掛け、湯気の立ち込める天井を見るともなく見上げていた。 |
END
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